ニジガクに感じる心地よさと、それが実現し得ないこと

アニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』にあまり関係がないこと。主張内容に妥当性もないこと。言いがかりにも等しいこと。

ラブライブシリーズを熱心に追いかけていたわけではないので、十分な知見を持っていないことが予想される。そう前置きして、少なくとも今の私は前二シリーズを「衰退を前提として、それに抗おうとする形でメンバーが強い動機を持つ物語だ」と認識をしている。以降はこの認識を前提とする。

Do we really need new maps?

ニジガクの舞台は豊洲~東雲~有明~お台場界隈の、いわゆる臨海副都心だ。虹ヶ咲学園は東京ビッグサイトをそのまま学校へと置き換えた形で描写される。SIFがらみの描写がわかりやすいけど、高校は他にもあって、そこにもたくさんの生徒がいて、学生以外にも若い人々で街があふれている。そういう世界。
これは私の認識する現状とは大きく異なっている。

ニジガクの臨海副都心は過剰に新しくきれいに描かれている。だけど基底現実の街並みはそんな新しいものではない。開発が始まったのが1989年、ビッグサイトやフジテレビ本社ビルなどがオープンしたのも20世紀のうちだ。すでにいろいろなところが陳腐化し、汚れ、綻び始めている。
私の言葉で表現するなら、バブル期の空気をまとった時代の末期に生まれた街だ。みなとみらい21とか、タカシマヤタイムズスクエアも似た位置にある。開発の背景も近いから、当然とは言えるけど。

私たちに新しい地図が必要になることはもうない。

現実の日本で、新しい街が生まれることはもうない。更新や大規模な再開発だって、行われるのは都心部だけだ。
多くの街では、今の古ぼけた建物を維持したまま、極力コストを抑えて、表面だけきれいにして、店が入れ替わるだけだ。なぜなら、大きな投資をするだけのリターンが期待できないから。

若い人ばかりいる活気にあふれた街というのも、これから先はどんどん細っていく一方だ。これは人口動態が簡単に証明してくれる。私自身も到底若者とは呼べない。
私たちはみんな揃って、旧い世界の重力に魂を引かれて、そこから一歩も動けずに死んでいくんだ。

物語と現実が常に一致を見ていなければならない、なんてことは思っていないけれども、一度認識してしまうと、まるで刺さったとげのようにいろいろなことが気になりだしてしまう。

(とはいえ私の 現状 もまた人口統計から見て否定されるものであって、実際に臨海部は子供の数が多くて幼稚園保育園や学校のキャパシティが問題となっているらしいけど)

Easy way out

みんながときめくことをして、楽しく好きなことをして、そこで何かが生まれる。全国大会としてのラブライブを目指さない、そして誰のスクールアイドル像も否定しない場としてのスクールアイドルフェスティバル。こういった自由な空気は作品を貫く心地よさに貢献している。 しかしここでも要らぬ疑念がわいてしまう。

優劣が明確につく競技の場で勝ち進むことは、衰退していく一途の基底現実ではかなわないことであるから、その辛さから目を背ける、夢想的な楽しみに耽る行為なのではないか。物語の構造が、現実逃避としての性質を強くしているのではないか。 そして、その割に、私的な願い、好き、ときめきに基づいて行われた行動が、なぜか強い力を持っているように描写される。地域を巻き込んだお祭り騒ぎにまで発展できる。このアンバランス。

東京都心で生きてる、豊かで才能あふれた人々の物語。
次のステージに進む覚悟を決めた人に向けられた、その水準を満たせない人間をスコープから外すことで初めてできる、高いレベルでの議論。
私には実現することのない、あるいは言葉の向けられることのない、関係のないこと。

……とかとか、いろいろなことが頭の中をぐるぐる回っている。なんというか、新しいジャンルにケチをつけに行く老害のとる典型的な言動にしか見えない。
わかってる。これは純粋にニジガクという作品を見ての感想というよりは、基底現実を生きる視聴者として、受け手としての私が持っている辛さとか苦しさとか劣等感とか、そういうものがごちゃ混ぜになった上で出てきた言いがかりでしかないのだ。
そう思うけど、出てきてしまった言葉をなかったことにはできない。

あるいは、日本の外にも市場があることを考えれば、日本固有の事情に縛られる必要はないし、むしろ可能性を狭めることになる。そういう商売の問題だ、と割り切ってしまうのもありだと思うけど、これもまたすっきりしない。

未来がないから

み‐らい【未来】 の解説
1 現在のあとに来る時。これから来る時。将来。「未来に向けて羽ばたく」「未来都市」
未来(みらい)の意味 - goo国語辞書

 

future
1. SINGULAR NOUN
The future is the period of time that will come after the present, or the things that will happen then. Future definition and meaning | Collins English Dictionary

いつの間にか、未来、Futureという単語が、希望を伴うものではなくなっていた。
辞書的な意味でいえば、適切、正しく認識できるようになったということではある。未来とは単に時系列上の後続に過ぎない。必ずしもbrightなものであるとは限らない。それはそうだ。
それでも思う。いつから未来が希望に満ちたものではなくなったのか。 この先失敗し続けて衰退するしかない国、所属、自分自身。明るい未来、希望などありえない。

このごろ、長い先のことが考えられなくなった。
子供のころのように、将来のことについて考えられなくなった。自分の可能性をすでに使い果たしてしまった。思考能力が低下し、未来のこと、大局的な物事を考えられなくなった。利害関係を最重要視するようになり、自分の得にならないこと、損になることにかかわらなくなった。
そんなことを、半年くらい前にNHK FMを聞きながら思ったことを思い出した。
成年に達するかどうかという年齢の人々が、意外と物事を――それも地球規模のことを――考えているように感じるのは、むしろ大人のほうが2 hop以内の利害関係のために、思考を停止してしまっているのだ。そう気づいたときには愕然とした。
社会とかかわり始めると、人はがんじがらめになってしまう。あるいは、自分の利益になることしか考えられなくなってしまう。
いったいどうしてこうなってしまったんだろう。

まとめ

新年初の記事がこれってどうなんだろう。

今年の目標を考えてみても、早く楽になりたいしか思い浮かばない。