レンズ一体型ディジタルカメラ

私は、比較的珍しい側に分類されるであろう、富士フイルムのX70というカメラを使っている。

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35mm換算28mm F2.8の単焦点レンズにAPS-Cの撮像素子を組み合わせた、端的に言えばRICOH GRみたいな市場を狙った製品、のはずである。とはいえGRとはキャラクターが明確に違っていて、操作系は独立したシャッター/絞り/露出補正ダイヤルが基本になっているし、レンズキャップは内蔵型じゃないし、薄さを犠牲にしてチルトのタッチパネルを搭載している。つまりあんまりスナップシューターじゃない。 私は、タッチパネルでフォーカス位置を設定できるのも便利に使っているし、チルト液晶があるととても嬉しいんだけど、後者がGRにつくことはまずなさそうだし、実質的なX70後継とも言えるXF10からも外されている。個人的にはレンズはもっと長いといいなと思うけど、世の中の人々はそう思ってはいないだろう。

何がいいたいかというと、私がいいと思うカメラはまず出てこないんだろうなって話。私の願望というのは、APS-C〜35mmフルサイズの撮像素子に50mm F2からF2.8くらいのAF単焦点レンズを組み合わせた、チルト液晶搭載のレンズ一体型ディジタルカメラだ。できれば手ブレ補正もほしいし、小柄なボディだとさらにありがたい。 この希望に一番近いのはおそらくシグマのdp2シリーズだろう。45mmの単焦点レンズを持つ、ほぼ唯一の存在。次は35mmクラスで、X100シリーズやRX1シリーズが該当する。中古ならライカX-Eあたりも。でもどれもいまいち私の要求にミートしない。 こういうやっかいな客はそれこそミラーレスにでも行けよ、という声がする。α6500に35mmでもつければいいんじゃね、お金持ちならライカにでも行ってください、という。はい。でもね、結局私は単焦点一本で撮りたいし、レンズ交換できないほうがセンサーダストの面で有利だって思うのだ(かつてのGRから目を逸らしながら)。

そもそも、50mmクラスの単焦点レンズを搭載したコンパクトカメラ自体、銀塩時代まで考えてもそう多くはない。恐らくはキャノネットだとか、オリンパスの35シリーズとか、ミノルタのハイマチックだとか、ヤシカエレクトロ35だとか、そういうレンジファインダー時代のものまで遡らなければならないだろう。そしてその中でも50mm焦点のものよりは広角寄りのものが多い。 その理由は理解できる。長いレンズの方がピンボケするリスクがあるし、広く写せばトリミングもできる。記念写真を撮るなら人物と風景両方写したい。そういうカメラに対するニーズを考えれば考えるほど、広角の方が望ましいのだ。プロ用サブ機として開発されたような機種でさえ、広角ばかりなのだから。50mmを欲するような撮影には一眼レフなりレンジファインダーを使ったほうがいい。ピント位置がちゃんと確認できるし、一眼レフであればボケ量まで撮影時に確認できる。

そしてなにより、今は高性能なズームレンズが溢れている。ズームレンズは便利だ。必ず写さなければならない被写体が存在するときに、これほど心強い存在はない。レンズを交換することなく、場所の移動が制約されていたとしても、きちんと成果を出すことが出来る。望み通りの構図、効果を実現できる。こんな素晴らしいものはない。

じゃあなんで私が単焦点レンズにこだわるのかというと、まあ単なる執着に近いんでしょうね。いちおう理由をならべてみると、概ねサイズが小さいし、概ね明るいし、概ね像の破綻が少ない。あとは、私は何でも撮りたいわけではなくて、手の中にあるもので撮れるものを撮りたい、というスタンスでいるからかもしれない。報道カメラマンみたいに、即応して写真を残さなければならないのだとしたら、私だってズームレンズを選ぶだろう。結局は、単なる趣味なのだ。

時代は多品種少量生産、マスカスタマイゼーションの時代だ、とは言うけれど、入念な検証プロセスを経て、ハード、ソフト共に設計、製造の品質を担保しなければならない複雑なシステムをどうこうするのはやっぱ難しいですよね、という話。

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